イギリス人の間で「トップ・ギア」と言えば知らない人はいないほど、イギリスの国営放送BBCの人気長寿番組だ。番組名からしてだいたい想像できるかもしれないが、車専門の番組で1977年から放送している。
番組の内容は、新車の紹介や車の批評などで、なかでも一番人気があるのが「実験」コーナーだ。
例えば「市販車とイギリス軍の車両で鬼ごっこ」とか「公共の交通機関とフェラーリ、どっちが早く目的地につくか?」などといった感じで、車好きだけではなく、普通の人でも楽しめる内容の番組なのだ。
新しく発売された車の批評では、実際の乗り心地や操作性なども試乗しながら「こんなの買ったらお金の無駄」「中古車の方がまだマシ」などと実に辛口で批判が展開されるため、たまに車のメーカーなどとトラブルが起こるほど。またある時は視聴者の車を借りて実験を行い、車軸を壊したままオーナーに返却して視聴者の怒りをかったこともあった。
最近大きな話題になったのはメキシコからの猛烈抗議だ。
ことの発端は、メキシコのスポーツカー「マストレッタ」を番組内で紹介したときのことだった。
レギュラー出演者が「車には国民性が表れる」とした上で、「メキシコの車は怠け者で無気力だし、多量のガスを発生させる上に、重すぎる。真ん中に穴の開いたブランケットをコートにして、サボテンを見ながらフェンスに寄りかかって寝てしまうんだ」と語った。
それに対して司会者は「こんなことを言ってもメキシコの大使館から苦情はこない。なぜなら、大使はリモコンを持ってこんな風に座っているからさ」と話し、椅子に崩れるように座りいびきをかくポーズをとった。
これに対してメキシコ大使は、出演者に公の謝罪を命じるようBBCに要求。書簡で「このような発言は、否定的な固定概念を強め、メキシコやメキシコ人対する差別を長引かせるだけだ」と非難した。
これに対するトップ・ギアの出演者が発表した謝罪文がコレ:
先週末、番組トップギアで、メキシコに親切ではない言葉をつい出してしまいました。もっと明確にいうと、この中央アメリカ人のことを怠け者で無気力だと言いました。
さらにメキシコの食事は、吐いたものを揚げ直したようだとも、ロンドンにいるメキシコ大使は寝ているだろうから苦情はしないに違いないとも言いました。しかし実際に大使から苦情があったので、もし彼が寝ていたとすると、きっと誰かが彼を起こし、その苦情によって国際的な問題になったわけです。
(中略)
よく世間の人々は、メキシコ人が得意なことと言えば、ビジネスマンの誘拐とアーノルド・シュワルツネッガーのプールの掃除とヘロインの栽培だけと言いますが、私はそんなことはないとわかっています。なぜなら、私は一度メキシコを訪れ、昼食をとりましたがとてもいい感じでした。そして誰も私を誘拐などしませんでした。しかもウェイトレスがとても美人だったことも覚えています。
(中略)
と言うわけでありまして、メキシコと国民のみなさまへ率直に謝罪する次第です。番組の一部で、怠け者で無気力と呼んでしまい本当に申し訳ありません。もちろん実際は違います。しかしながら質問もあります。みなさんは少しユーモアというのが欠けているのではありませんか。
例を挙げましょう。もう何十年もフランス人たちは我々イギリス人を料理ができないとバカにしてきました。オーストラリア人は我々が風呂に入らず不潔だと言い、アメリカ人は我々の歯が腐った黄色い切り株のようだと言います。
ほとんどのイタリア女性は大きな声で、イギリス人とベッドインするくらいならネズミと入ったほうがマシだとか、中には多分ネズミとあまり差はないとまで言われていますが、それらだってスコットランド人が言ってることよりはマシです。
我々はこれらのどれも気にしません。なぜなら害のないものだからです。そして害がないからこそ、我々のほうもこきおろします。私がフランス人を傲慢だと言うときは、彼らが本当に傲慢で嫌いなので、全員とっとと死んで欲しいという意味ではないのです。私の本当の意味は、「彼らは傲慢だ、さぁビールでも飲もうか」と言いたいだけなのです。
アメリカのコメディアンが指摘していたように、イギリス人だけが友人を紹介するときに、「ビリーを知っているかい?こいつはちょっと最低なヤツなんだ」と言うのです。それが我々イギリス人です。そして我々イギリス人は自分たちのこともジョークにします。
(中略)
もちろん無礼なユーモアはすべて禁止せよといった動きもイギリスでは出てくるでしょう。しかし人々がよくわかっていないのは無礼なしにはジョークは成り立ちません。
誰ひとり不機嫌にならないジョークを1つたりとも聞いたことがありますか。
ということで、ひとつ例をここにあげておきます。問:どうしてメキシコにはオリンピック選手団がないのか?
答:それは走ったり、跳んだり、泳いだりが得意な人はすべて、国境を超えるからです。
司会のジェレミー・クラークソンらしい嫌味まじりの謝罪ではありますが、これもイギリス人のユーモアがよく現れていると思います。
イギリス人はユーモアでことを乗るきるのが大好きです。
中東で人質に取られた時も、ほかの国の人々が毎日ぐったりして牢屋の生活をしていたというのに、イギリス人グループだけが笑いが絶えなかったという話を聞いたことがあります。
イギリス人は苦しい状況にいてもいつもユーモアで乗り切る国民なのです。だから彼らの言うことは笑ってきいてあげてください。抗議してもこんな謝罪文が帰ってくるだけですから。
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